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第7章 深夜の邂逅 2/6

last update Last Updated: 2025-04-23 18:00:50

 飲み会が終わり。

 菜々美〈ななみ〉は小雨の繁華街を、一人歩いていた。

(悠人〈ゆうと〉さん、私のことをどう思ってるんだろう……やっぱり妹なのかな……)

 そんなことを考えながら信号が変わるのを待っていると、サラリーマン風の二人が近寄ってきた。

「君、今一人?」

「よかったら一緒にどう?」

 明らかに酔っている二人が、菜々美の肩を抱いてきた。

「あ、あの……やめてください」

「いいじゃないの。どうせこうして声かけられるの、待ってたんでしょ」

「楽しいからさ、一緒に飲みにいこうよ」

 肩を抱く手に力を込める。

 男に免疫のない菜々美の足が、がくがくと震えてきた。助けを求めたいが声も出ない。

「あれ? ひょっとして震えてる? 大丈夫だよ、俺ら優しいから」

 涙があふれてきた。

「はいはいウブな真似はもういいから。行こ行こ」

「……菜々美ちゃん?」

 聞き覚えのある声がした。菜々美が顔を上げると、そこに悠人が立っていた。

「ゆ……」

 悠人の顔を見た瞬間、緊張感が一気に解け、その場にへなへなと座り込んでしまった。

「うっ……」

 口に手を当てると同時に、涙が頬を伝った。

「ほんとに泣いちゃったよ」

「てか、お前誰だよ」

「何してるんだ……」

「何だお前、喧嘩売るってか」

「何してるんだっ!」

 悠人が傘を投げ捨て、今にも飛び掛りそうな勢いで二人を睨みつける。

 その勢いに、二人が一瞬後退る。しかしすぐに態勢を戻し、悠人に突っかかっていこうとした。

「ふざけるなお前ら! 消えろ!」

 悠人の大声に、通行人たちが足を止めて見物しだす。周りに人が集まってきたことに気付いた二人は、

「けっ……格好つけてるんじゃねぇぞ!」

 そう捨て台詞を残し、その場から去っていった。

「……」

 通行人たちも立

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